空間デザインの足し算と引き算(simple designの難しい理由)

満足するまで足していく“豊か”なデザイン

デザインに良く足し算とか、引き算とかいう言葉が出てきます。これはできた空間から物を足すか引くかというだけの話というよりも、デザインの手法、ロジックのような話です。

建築でも言えるし、寄せ植え一つでも言える話です。わかりやすく数字で例えると、5ぐらいの要素が入る程度の小さいサイズの空間をデザインするとします。

足し算の空間とは、シーティングパーゴラを置きたい、ライトも置きたい、ツルバラを這わせたい・・・こうやって足りないと思う部分を補いながら足していく。ポイントに寄せうえを置く、空間はどんどん豊かになっていきます。5ぐらいと思っていたけど、6になっても良いかもしれません。メリットは“豊かさ”の演出がしやすいところ。足りないを満足するように足していくので、ガーデンショーの作品をみていても、実は人気があるのはこの“豊かさ”が表現できている作品だったりします。ショーを見に来る人はお金を出してまで“リアル”を見たいと思うより、ある意味非現実も含めた豊かな作品に惹かれるし、どこかに好みも見つけやすく万人受けにもつながりやすいと思います。

好みが別れる?引き算作品

 

引き算のロジックとはどうゆう事かというと、先ほどと同じような広さの空間をデザインする時、庭でしたい事や、見たい景色などずらっとあらゆる可能性を考えます。家族6人暮らしていたら6人分の可能性も広がります。経験の多いデザイナーは100ぐらいの可能性をあげられるかもしれません。でも、この空間で、もちろんすべてはできません。できるのはたぶん5ぐらいです。今度は色々な視点から削る95を考え、残す5を際立たせる作業です。メンテナンスや庭の使い方、異なる重さの単位のあらゆる事を天秤測りにかけたり、大変な作業です。でも、削り切れないから10残そうとすると、それぞれが空間の中で中途半端になってしまう怖さもあるので、5に削ります。ときにはもう一つ削って、4にする事で残った4が俄然輝く可能性もあります。コンセプトに合わせてどう抽象化していくか。これが引き算のメリット、文字通り“洗練”です。

時には98をそぎ落としさなければならない盆栽と掛け軸のように2しか残せないデザインもあるかもしれません。つまり、引き算のロジックと足し算のロジックではシンプルになるほど難しさが違ってくるのです。

最初は普通経験が少なく、可能性を100上げられないので、足し算から入る事がほとんどです。やりたい事を全部やって自分を評価してもらいたいと思います。若いうちは、聞くよりも自分の知っている部分の知識を良くしゃべりたてるのと同じです。ところが経験を重ねてくるとほとんど口を開かず聞いていても、少ない言葉で芯を取る事ができるようになってくるのです。

simple designとは、5だけ考える作業というよりも、95をそぎ落とす作業という事です。

偉そうに書いた私はまだ、引き算ロジックに憧れているけど、たぶん経験が足りなくて30からやっと5に引き算している程度のように思います。

2010年優秀賞 見るからに足し算ロジック

10年前の作品は、思いっきり足し算です。仲間に恵まれ、10年施主のいない自分達と向き合える大がかりな作品を作らせていただけて、良い悪いも評価していただいたおかげで色々な事に気づく事ができました。

2013年は引き算ロジックの入口かな?

2013年でようやく色々考え抜いて、模型も作って、そぎ落としてそぎ落としての引き算ロジックの入口に来た気がしました。ガーデンショーの他の人の作品を見ていても足し算か・・・引き算か・・・自分の経験からなんとなく話さなくてもわかるようになってきました。簡単に言うと空間の好みとかは別として、見た瞬間にコンセプトが浮き出ている作品は、そのために装飾的要素を頑張って引いた可能性が高いです。すごくシンプルでも、コンセプトが見えないシンプルは、100から95引いて5にしたというよりも、芝生、株立ち樹木、ベンチみたいに間違えない要素せいぜい7ぐらいから2を引いて5になったり、なんとなく思いついたのが5だったりという可能性もあります。シンプルなら引き算ロジックと限らないのはこの部分です。

書き方がまるで、引き算ロジックの方が上みたいに書いてしまっていますが、引き算の作品は入賞しにくい傾向にあるような気もします。要素が少なくなりがちな分、万人受けとはなりにくいので、たまたま審査する方の嗜好や考え方とかみ合わなければ素通りされる可能性もあります。そして、大切な事は空間に“洗練”を求める方もいれば、“豊かさ”を求める方も多くいます。同じ人の寄せ植えでも洗練を求める時も、豊かさを求める時もあります。

こんな事を考えていると、このロジックを人生に当てはめてしまうんです。

そして引き算するからこそ出てくるそのひと“らしさ”。自分らしさ。 出せたらいいな。

なんて考えていたら、自分らしくない真面目なブログになってしまいました。